いじめって小さなファシズムである【読書レビュー】ファシズムの教室

日々、マスコミで報道される悲惨ないじめのニュースを見るたびに心を痛めています。私自身、小さいころはいじめを受けた経験があり、今でも思い出すのも苦しい経験もあります。いじめは、駄目。これは当たり前のことです。

ただ、いじめということが人間の認知心理や、社会形成の歴史と紐付けて論じられることはかなり少ないとも感じています。人はなぜいじめをするのか。それを考える上で参考になる本をみつけました。

ファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのか 

本書はいじめについて直接的に論じている本ではないです。ただ、私はいじめとファシズムは本質的に同室な部分があると感じています。

ファシズムといじめの共通点

一般的にファシズムというと、第2次世界大戦時のアドルフ・ヒトラーの恐怖政治の体制を思い出す人が多いでしょう。ですが、本書で扱っているのはその当時、ファシズムを支持していた人々に心理状態のことを指しています。

ファシズムの本質とは何なのか。本書で詳しく説明するように、これを究明する鍵は何よりも、集団行動がもたらす独特の快楽、参加者がそこに見出す「魅力」に求められる。
(中略)
権威への服従を基盤としながら、敵の排除を通じて共同体を形成しようとすること、そこにファシズムの根本的な仕組みがある。

私は、本書で扱っているファシズムの本質が、いわゆるスクールカースト上位者が、下の人を排除するいじめの構造ととても似ていると感じました。いじめに加担している側は、その言動によってある種の快感を感じていると考えるべきなのです。

集団への帰属心から得られる安心感、そして共通の敵を叩く安心感。これが、ファシズムもいじめも共通していると感じるのです。

ファシズムとの本質は責任からの開放である

個人個人では、良い人だったのに、集団になって突然信じられない事件が起こった出来事というのは、昔から枚挙に暇がありません。あの優しい子があんな残虐なことするなんてというインタビュー映像を我々は何度も見てきています。

その本質は、権威に服従することによって、人は自分の行動に対する責任から逃れるということにあります。

「指導者から指示されたから」「みんなもやっているから」という理由で、彼らは個人としての判断を停止し、指導者の意思の「道具」として行動するようになる。監獄実験やミルグラム実験の結果が示しているように、権威への服従は人びとを道具的状態に陥れ、自分の行動の結果に責任を感じなくさせる働きをもっている。  そこではどんなに過激な行動に出ようとも、上からの命令なので自分の責任が問われることはない。逆説的なことに、権威に従属することによって人は行動に伴う責任から解放され、社会的な制約から「自由」に行動できるようになるのです。

ユヴァル・ノア・ハラリの著者「サピエンス全史」によれば、ホモサピエンスは、宗教という共通の価値観を得ることで集団を形成することに成功し、生存競争に打ち勝つことが出来たと言われています。

宗教の中には、残酷な教義がある場合もあります。それでも人がそれを受け入れてしまうことがあるのは、それが神の教えという金科玉条をもっているからで、これことによって人々は自分の責任から解放されていると考えられるのです。

そして、学校のクラス内の権威者が共通の的を作る場合、いじめについてもほぼ同じ構図が成り立つと私は考えています。

いじめは人間の本質として対処すべき問題

ファシズムやいじめは、人類の歴史と結び付く、人間社会の本質だと言えるのかもしれません。

人間が集団を作り、社会を形成して行く上で、それは避けられない闇の部分だったのかもしれないと私は感じています。だとすれば、よく聴くスローガンの「いじめはダメ、絶対」のような標語はまったく意味をなさないと言えるでしょう。私はいじめの報道を見ながらいつも歯がゆい想いをしています。

日本の教育は、上からの指示であればとにかくやる。周りに合わせて問題を起こさない子が良い子であるという風潮が未だにあるため、それがいじめの温床になっている気がします。日本の教育は戦後、戦争の反省から平和教育と謳っていますが、本当でしょうか。

これからの教育で大事なことは、自分の選択に責任、権威を持たせるということだと私は考えています。誰かが言ったからとかではなく、自分の選択を自覚させる。そういう教育的なアプローチが重要なのでしょう。

また別に、現代が第3次産業革命の時代と言われるように、インターネットやAIの進化によって、人間社会の構造も大きく変わりつつあります。このコロナ過によってリモートワークが一気に普及したのもその一つと言えるでしょう。

このことによって、以前のように自分に合わないコミュニティには属さずに、自分でコミュニティを選択したり、複数のコミュニティに横断的に関わるといったことも以前より随分と簡単になってきました。

もし自分が被害者になりそうになったら、コミュニティを変えるという選択が簡単にできるようにすることも、これ以上被害者をださないために重要な仕組みだと感じています。

今日のアクション

本書では、実際の実験として、人がファシズム支配された時にどのような心理状態なるかをリポートしてくれています。興味深い内容なので、是非読んでみて下さい。